企業分析NOTE

採用人数と離職率のセット読み|大量採用×高離職のシグナルを見抜く

「年間500人採用」と聞くと一見すると勢いのある成長企業に見えますが、その裏で年間400人が辞めていれば、それは成長ではなく単なる人材の入れ替わり——いわゆる「人材使い捨て型」のシグナルです。

本コラムでは、採用人数と離職率を組み合わせて読むことで企業の人事構造を見抜く方法を解説します。2023年から有価証券報告書で人的資本開示が義務化され、これらの数字が比較しやすくなりました。


採用人数だけ見る危うさ

企業の採用ページや就活情報誌では、年間採用人数が大きく掲げられます。しかし採用人数の絶対値だけでは、以下のいずれかは判別できません。

  • 事業拡大による純増採用なのか、単なる退職者の補充なのか
  • 新卒中心か、中途も含めた合計か
  • 翌年度に何人がまだ在籍しているのか

採用人数のインパクトを正しく評価するには、必ず従業員総数に対する比率離職率をセットで確認する必要があります。


採用率×離職率の4象限

採用率(採用人数÷総従業員数)と離職率(年間離職者÷総従業員数)を組み合わせると、企業のタイプを4象限に分類できます。

タイプ採用率離職率解釈
①成長型高(10%超)低(5%以下)事業拡大に伴う純増採用。働きやすさも維持
②使い捨て型高(10%超)高(10%超)人材を回転させて事業を回す構造。要注意
③安定型低(3%以下)低(3%以下)年功序列の伝統的大企業に多い
④縮小型低(3%以下)中〜高(5%超)採用抑制下で人員減。事業縮小・構造改革局面

特に注意したいのは②使い捨て型です。表面上は「成長中・採用拡大中」と発信していても、内実は人材の入れ替わりで成り立っている可能性があります。離職率10%超が3〜5年続く企業は、構造的に長く働き続けるのが難しい職場である可能性が高いといえます。


業界別の離職率の目安

業界離職率の目安(年)
電力・ガス・鉄道などインフラ1〜3%
大手メーカー2〜4%
大手金融(メガバンク)3〜6%
総合商社3〜5%
IT・通信5〜10%
小売・外食10〜20%
人材派遣・SES15〜30%

業界平均と比較せずに「離職率8%」だけを見ても判断できません。インフラ業界で8%なら異常値、IT業界で8%なら平均並みです。業界別の比較は本サイトの業界ページで確認できます:→ 情報・通信業小売業サービス業


3年以内離職率の重要性

通年の離職率より新卒就活生にとって意味があるのが「3年以内離職率」です。厚生労働省の調査では、大卒新卒の3年以内離職率は全体で約32%。一方、有報で開示する企業の中には10%未満を維持する企業もあれば、50%超の企業も存在します。

3年以内離職率が高い企業の特徴:

  • 店舗・現場勤務中心で、シフト勤務や転勤が多い
  • 短期間で「向き不向き」が明らかになる営業職中心の構成
  • 「未経験OK」で採用ハードルが低い分、ミスマッチが発生しやすい

就職四季報や企業ページに記載の3年以内離職率を必ず確認することをおすすめします。


勤続年数とのクロスチェック

離職率に加え、有報記載の平均勤続年数も確認しましょう。離職率と勤続年数は逆相関の関係にあるため、両者の整合性をチェックすることで開示数値の信頼性も判断できます。詳細は勤続年数と離職率の正しい読み方を参照してください。


採用人数の「質」を見る

採用人数の中身も重要です。新卒・中途の比率、職種別の構成を確認することで、どんな人材を求めているか見えてきます。

  • 新卒中心:長期育成型、企業文化への適応を重視
  • 中途中心:即戦力重視、専門スキル評価
  • 新卒:中途が1:3以上:急成長または人材流出の補充

人的資本開示の詳しい読み方は人的資本開示の読み方を参照してください。


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まとめ

  • 採用人数だけでは事業拡大か退職補充か区別できない
  • 採用率×離職率の4象限で「成長型」「使い捨て型」「安定型」「縮小型」を見分ける
  • 離職率は業界平均との比較が必須。同じ8%でも業界によって意味が違う
  • 3年以内離職率と平均勤続年数を組み合わせて開示の整合性を確認
  • 新卒・中途の比率や職種構成も合わせて見ると、企業の人材戦略の輪郭が見えてくる